“スポットライト”第2回目は栃木県障害者スキー協会会長の『坂本裕明さん』にお話を伺います。
坂本さんは、平成10年に財団法人日本障害者スポーツ協会公認初級スポーツ指導員資格を取得し、平成14年の『栃木県障害者スポーツ指導者協議会』の設立、『栃木県障害者スキー協会』の設立に大変ご尽力のあった方です。今回は、坂本さんに、障害者スキーの楽しさや障害者スキー協会の活動について伺います。[聞き手:協会職員(小金沢)]
▼障害者スポーツとの出会い
小金沢:1998年(平成10年)に障害者スポーツ指導員の資格を取得していますが、障害者スポーツとの出会いといいますか、ボランティアを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
坂 本:きっかけは、やはり「長野パラリンピック」ですね。「長野パラリンピック」には、“クロスカントリースキー”と“アルペンスキー”の両方を見に行きました。それには、かなり衝撃を受けました。
小金沢:「長野パラリンピック」がきっかけですか。私も長野には行って、本県の黒須高(くろす たかし)選手を応援しました。本当に素晴らしい大会でした。
それから、坂本さんは、平成14年の『栃木県障害者スポーツ指導者協議会』や『栃木県障害者スキー協会』の立上げに深く関わっていただきました。
坂 本:スキーは、私にとって一番の趣味であり特技でもあります。「長野パラリンピック」を見てから、地元に何とかして根付かせたいという思いで頑張りました。結局、『栃木県障害者スキー協会』を立上げるまでに3年ほどかかりました。
当時、私は、富山チェアスキークラブにお願いして、元チェアスキー協会の競技部長からマンツーマンの指導を受け、チェアスキーを覚えました。
▼栃木県障害者スキー協会の取り組み
小金沢:『栃木県障害者スキー協会』についてお聞きしたいのですが、現在、会員は何人ですか。
坂 本:賛助会員を含めると35名ほどいます。
小金沢:どのような種別の障害者がいるのでしょうか。
坂 本:大きく分けると、上肢障害、下肢障害、視覚障害、知的障害の方がいます。
小金沢:坂本さんは、『日本身体障害者スキー協会』の理事や『日本障害者スキー連盟』の代議員としても活躍中でありますので、本県のみならず全国活動にも関わっておられますが、全国的には障害者スキー協会は、何箇所あるのでしょうか?
坂 本:関東では、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川などにあったと思いますが、全国では20箇所程度あると思います。さすがに西日本は少ないです。
小金沢:地域の特色を生かしたスポーツ振興ということでは、栃木県では障害者スキーを根付かせたいところですね。 『栃木県障害者スキー協会』の活動についてお伺いしたいのですが、先頃、スキー教室を開催しましたが、そのほかにはどのような活動がありますか。
坂 本:年に2回の日帰りのスキー教室と1泊のスキーツアー、最近は、雪不足で開催できないのですが、クロスカントリーの体験教室を実施しています。
小金沢:指導者の養成の取り組みについてお聞かせください。
坂 本:ボランティアの方で希望者には指導の仕方を教えていますけれど、特別には行っていません。以前、『栃木県障害者スポーツ指導者協議会』主催で講習会を開いたことがあります。その後、指導者養成講習会は開催していませんが、“障害者スポーツ指導員”の皆様には手伝って欲しいですね。
小金沢:本県の障害者スキー協会は、発足から10年が経過しますが、活動を振り返っていただきたいのですが・・・。
坂 本:介助をお願いするボランティア不足というのは相変わらずあります。財源的な問題も色々ありました。私たちの活動は発足当初「皆で支えあう」という精神で取り組んでいたので、介助の方にも負担をお願いしていました。一時期、スタッフの数が減りました。不景気の影響もあったのですが、スタッフの中には、お手伝いするのに何でお金を支払うのかと思う方もいました。職場の転勤や結婚、年齢的な問題で辞めていく方もいました。財源的にこの体制では無理だということで、やむなく昨シーズンからは障害者の方に負担を増やしていただき、介助の方の負担を極力減らすようにしました。今シーズンは、県からバス利用に関して助成がありましたので、介助者の負担は1,000円だけで済みました。本当に助かりました。
小金沢:当協会ホームページでもスキー教室のレポートを掲載させていただきましたが、参加者の皆さんは、大変喜んでいましたね。
坂 本:10年取り組んでいて、今回が一番の成功でしたね。
小金沢:スキー教室当日は、現場では、いろいろなご苦労もあったかと思いますが・・。
坂 本:参加者が多かったこともありますが、初めて顔を合わす方もいましたので、リフト券を配布するなど大変でした。そういう点で、今回は、事務方のボランティアがいたので助かりました。スキーができなくても良いので、事務的なことをやってくれるボランティアが必要ですね。
小金沢:ボランティアの関わりがもう少し必要ですね。
坂 本:ボランティア募集の記事を新聞等に掲載するのですが、先入観としてスキーができなくては駄目というイメージがあるようです。スキー指導以外でも必要な場面は沢山ありますので、多くの方に関わっていただきたいです。
また、実際にチェアスキーやバイスキーをする際には、ゲレンデには多くのスキーヤーがいますので、後ろから突っ込まれる可能性があるので、少し離れたところでブロックをつくる必要があります。そのような場面でもボランティアは必要ですし、あとは、チェアスキー・バイスキーの方をリフトに乗せる場面でもボランティアが必要です。必ずしもスキーが上手くなくては駄目だということではないのです。
▼デフリンピック中止は本当に残念です
小金沢:一人の障害者が滑るのに沢山のボランティアが必要なのですね。10年も続けていくのは本当に凄いことですね。
ところで、先日、「デフリンピック中止」という出来事がありました。『栃木県障害者スキー協会』には聴覚障害者の方は登録していないようですが、どのように思われますか?
坂 本:普段練習していて、この大会を目指して努力してきたのに、あのような形で中止になるというのは、本当に残念です。選手の方は、今まで練習してきた成果が発揮できないのは残念でしたが、それは財産となります。それを高めて、さらなる上を目指して欲しいです。
▼栃木県の障害者スキーの今後について
小金沢:本県の障害者スキーを振り返ると、長野パラリンピック大会チェアスキー代表の黒須さんが牽引して参りました。その後、聴覚障害者の皆さんが全国ろうあ者体育大会でスノーボードで優秀な成績を収めています。原田さんは、3大会連続で国際大会に選ばれている状況があります。スペシャルオリンピックスでも国際大会に出場する方も出てきました。本県は、雪にも恵まれている地域であり、今後、障害者の冬季スポーツが益々盛んになる可能性があると思います。
坂 本:『日本障害者スキー連盟』という団体の下部組織として『日本身体障害者スキー協会』『日本チェアスキー協会』『日本障害者クロスカントリー協会』『日本知的障害者スキー協会』という4つの団体があります。それを1本化しようという話が何年も前から出ていますが出来ないでいます。私たちが加盟している『日本身体障害者スキー協会』だけが唯一地方組織を持っているので、そこが受け皿となって身体に限らず様々な障害者を受け入れる体制がとれれば一番良いと思っています。
現時点では、私が把握している範囲の話ですが、栃木、福島、岩手、山形が知的障害者を受け入れて活動しています。
小金沢:本県の障害者の方には、是非、『障害者スキー協会』に加盟していただき、もっと多くの方にスキーを楽しんで欲しいです。本県も地域特性を活かして、障害者スキーが盛んだというところをアピールしたいですね。
坂 本:そうですね。せっかく雪に恵まれていて、スキー場がある県ですからね。当事者、ボランティアの両方を増やしたいです。
小金沢:『障害者スキー協会』の今後の展望について、山登りを趣味としている坂本さんは、どのような頂上を見ているのでしょか。
坂 本:先ずは底辺拡大です。今までは、ほとんど社会人を対象としていました。今シーズンは、初めて、たくさんの子供を受け入れました。今回のスキー教室で大丈夫という自信がつきましたので、もっと参加して欲しいですね。ご父兄にも参加していただければ、このようにすれば安全にできるということが分かってもらえると思います。小さい頃から取り組めば、上達も早いですし、楽しさも分かります。その中から、上を目指そうとする方が出てきて欲しいし、本協会としても頑張ります。
全国的に見ても競技が盛んな県というのは、当然、スキー人口も多く、協会や連盟に加盟している人も多い。やはり、活躍する選手が出ると、同じような障害の方が頑張っていることは勇気付けられます。自分でもやれるのではないかと思えるような“あこがれ的存在”が出てきてくれると底辺拡大にも繋がります。
小金沢:そのためには、坂本さんと一緒になって頑張ってくれる方がもっと必要ですね。
坂 本:そうですね。徐々にではありますが、仲間も増えてきています。
小金沢:この活動を続けてきて良かったなと思えることは何ですか。
坂 本:精神的な部分では、自分自身の成長に繋がっていると思います。その他では、スキーの技術も上達しましたね。
小金沢:そうですよね。ときどき、ボランティア活動を自己犠牲と感じている方もいますが、それでは長くは続きません。
坂 本:そうですね。絶対長続きしません。長く続けて感じることは、自己犠牲では続かなかったと思います。自分も楽しむという気持ちがあったからだと思います。
坂 本:しかしながら、障害者スポーツ、スキーを取り巻く環境は厳しいものがあります。経済的なものが大きいですね。自分の生活を守るのに精一杯な感じがします。スキーは、他のスポーツよりもお金がかかります。今回のスキー教室は、参加者の負担が少なくて済んだので、これからも続けられるようにしたいです。個人で行くよりも格安だったと思います。
▼スキー場のバリアフリー化について
小金沢:スキー場についての話を伺いたいのですが、県内にはスキー場が沢山ありますが、バリアフリー化の状況はどうですか。
坂 本:なかなか進んでいません。もっと障害者が利用しやすいようにスキー場内のアクセス的なものを改善して欲しいです。そして、できれば料金体系を安く見直ししていただきたいです。
小金沢: 当協会では“スポーツ教室”を市町の体育館等で開催していますが、初めて参加した障害者の方が、「家を出発する前に、これから行く体育館の入り口には階段があるのだろうかといった心配を抱きながら出かけた」とおっしゃっていました。その方は、「もし、スロープがなければ参加しないで家に帰ろう。」思いながら参加したそうです。せっかくやる気になってもハード面の問題であきらめてしまうのは残念なことです。障害者がスポーツを楽しむためには施設のバリアフリー化は重要な問題です。当然、スキー場も同じであると思います。もっとスポーツ施設のバリアフフリー化に関する情報を発信する必要があると思いますので、当協会としても早急に取り組みたいと考えています。
坂 本:スキー場によっては、従業員に対して障害者を受け入れるための講習会を開催しているところもあります。私も講師として招かれて行きます。前向きで素晴らしいと思います。もっと講習会を開催するスキー場が増えれば、スキー場の環境は変わると思います。
小金沢:スキー場のバリアフリー化も重要な問題ですが、何よりも、そこに働いている従業員の方の障害者に対する理解が必要です。従業員の方を対象とした講習会の開催は重要な取り組みですね。最後になりましたが、坂本さんが描く今後の障害者スキーの振興について語ってくれますか。
坂 本:障害者の方にスキーに触れていただきたい。そして、健常者の方にも障害者がスキーを楽しんでいるということを知っていただきたい。障害者のスキーに興味を持ってくれる方が増えて欲しい。スキー人口を増やして行きたい。スキー場も、是非、使ってくださいというところが増えればと願っています。そのためにも「障害者スキー協会」は頑張ります。
<坂本裕明さんのプロフィール>
生年月日:1966年3月30日生まれ
現住所:宇都宮市
出身地:東京都
趣 味:スキー、山スキー、山登り
栃木県障害者スキー協会会長(協会情報)
日本身体障害者スキー協会理事
日本障害者スキー連盟代議員