“スポットライト”第7回目は、『インチョン2014アジアパラ競技大会』アーチェリー競技の日本代表選手として出場した大塚忠胤(おおつか ただつぐ)さんにお話を伺いました。
▼アーチェリー競技の魅力について
小金沢:今回の『全国障害者スポーツ大会』は、『アジアパラ競技大会』が終わってすぐでしたので疲れが残っていたと思います。
大 塚:転戦ということについては、毎週試合が入っているので慣れています。
小金沢:その試合というのは健常者の大会ですか。
大 塚:はい。結局、健常者の大会しかないと言えるくらい障害者だけの大会というのは少ないのが実情です。障害者の大会というものは、昨年から『ジャパンパラ』がなくなってしまいましたが、県協会の組織がしっかりしたところでないと障害者だけで大会を開催することは難しいと思います。「東京都」、「神奈川県」、「埼玉県」のように組織がしっかりしているところでないと大会を開くことは難しいです。「埼玉県」は、地元の高校生も加えての大会を開催しています。障害者の場合ですと、的など準備することができないので健常者の助けが必要になります。健常者とは切っても切れない関係です。健常者と障害者が一緒になって競技している状況は当たり前の姿なのかもしれません。道具も一緒で、撃つ距離も一緒ですから。
小金沢:健常者と同じ土俵で競い合うスポーツは少ないと思います。
大 塚:中東の選手で〝ワンバック”という選手がいるのですが、彼は『オリンピック』に出ても健常者と対等に勝負できる実力者です。そのくらい健常者と障害者の実力が肉薄しているのがアーチェリーというスポーツです。
小金沢:それが魅力ですか。
大 塚:はい。魅力ですね。アメリカの“ジェフ・ファブリー選手”は、障害者と健常者の壁を取り払って一緒に競技しようと活動しています。私は、強化指定のランクを上げるために寒い時期はインドアの大会に出て得点を重ねています。2月にラスベガスで『ベガスシュートオープン』とういう大会に出場しますが、世界各地から約2,500人が集まる大きな大会です。私にとって“ジェフ・ファブリー選手”は目標としている選手です。最近になって、ようやく競い合うことができるくらいに上達しました。残念ながら、去年も今年も“ジェフ・ファブリー選手”に負けて2位でしたが、私は彼と競い合うことが励みとなっています。彼は障害者の大会で1位になっているのではなく、健常者と競い合って1位になっている凄い選手です。
小金沢:“ジェフ・ファブリー選手”は、どのような障害を持っている選手ですか。
大 塚:右手と右足がない選手ですが、国際大会では「W1」という車椅子のクラスになります。私の場合はスタンディングなので、「コンパウンド・オープン」というクラスになります。
小金沢:国内のライバル選手を教えてください。
大 塚:国内ですと「東京都の服部選手」です。服部選手が国内ではトップです。その方に追いつかなければいけないと思っています。私の場合は、ようやく強化指定のCランクに入れたので、その上を目指しています。
小金沢:強化指定の上位になるためには、大会でのポイントを獲得することが必要ですが、仕事との両立ということで大変だと思います。
大 塚:アーチェリーは、『オリンピック』などのトーナメントでは1対1の勝負になりますが、そこにたどり着くまでは自分との戦いなのです。自分のベストを乗り越えて行かなければならないのです。現在、私の目標としているのは340点です。360点満点で340点を出したいと思っています。私は、アーチェリーという競技は人と競い合うのではなく、「昨日の自分に勝つための競技」と思っています。「昨日できたことが今日できないということは、自分が昨日の自分に負けてしまったことを意味する。」と思っています。
小金沢:奥が深いですね。昨日の自分に勝つ競技ですか。己との戦いですか。
大 塚:あくまでも自分自身との戦いなのです。自分を越えなければ次の自分はないのです。アーチェリーの歴史をたどると、『パラリンピック』で最初にはじめられた競技です。イギリスで「ストークマンデビル」というところがありますが、車椅子の選手が、プッシュ・プルする(押して引く)ことで上腕を鍛えたことが始まりだと聞いています。
小金沢:『スポーツトークマンデビル大会』というのは、車椅子バスケットボールの大会ですよね。
大 塚:たぶんアーチェリーの方が歴史は古いと思います。パラリンピック競技の中で一番古いと思います。
小金沢:今回、『アジアパラ競技大会』では、本県からは大塚さんの他に駒﨑選手も出場しました。駒﨑さんは『アジアパラ競技大会』では「ローイング競技」で銀メダルを獲得しました。駒﨑選手は、『栃木県身体障害者水泳協会』の会長でもあります。大塚さんは、アーチェリー競技以外に何か競技を始めようと考えたりはしませんか。
大 塚:アーチェリーは、一年を通して楽しめるスポーツです。冬季はインドア、夏季はアウトドアで、同じ道具で一年間楽しめるというのも魅力です。
小金沢:そうですよね。ところで、『足利市民プラザ』ではネットを張って室内で練習していると思いますので、『わかくさアリーナ』でもネットを張ればアーチェリーを楽しめますよね。
大 塚:できますよ。的と畳を置いておく場所があればできます。
小金沢:体験会を開くこともできますね。
大 塚:体験ですから、始めから18mの距離はいりません。5mで十分です。この部屋でも十分なのです。私の場合、最初からその距離を撃つのを断られましたから・・・。最初は弱い力でも引ける弓を使いますので、初心者でも引けます。徐々に慣れてきたら、自分に合った弓を購入すれば良いと思います。
小金沢:最初から用具を揃えなければならないと思いましたが、慣れるまで貸してくださるならば意外と気軽に始められますね。大塚さんの話を聞いて、私の中でのハードルは低くなって参りました。
大 塚:ハードルは低いですよ。
▼2022年全国障害者スポーツ大会(栃木県開催)について
小金沢:7年後の『全国障害者スポーツ大会』を見据えて、これからもっと競技人口を増やすとともに技術を向上させなければなりません。他県と比べると競技人口や選手たちの能力に差があると思います。アーチェリー競技の選手の育成強化について、どのような取り組みが必要だと考えますか。
大 塚:強化指定のランクについてはA・B・Cの3段階あるのですが、私は現在Cランクです。来年度に向けては、もうワンランク上の指定を受けるようにしたい。そのためには、健常者の試合に出て強化指定の得点を今の点数より上げることが必要です。2022年に「栃木県」で『国体』が開催されますが、私がアーチェリーを始めた頃によく聞いた話では、「栃木県」は『国体』のアーチェリーの発祥の地らしいです。前回の昭和55年の『国体』のときには当時の「馬頭町」でアーチェリー競技が開催されましたが、アーチェリーの歴史の中で『国体』のアーチェリー競技を初めて開催したのが「馬頭町」だったそうです。現在は「那珂川町」になりますが、「県立馬頭高等学校アーチェリー部」は活動していますが、『国体』の種目は70mの距離が必要です。しかしながら、県内には70mの距離を撃てるアーチェリー場が一か所しかありません。「宇都宮市」に「みずほの中央公園アーチェリー場」がありますが、ここが唯一90mの距離まで射てる場所です。『オリンピック』でも70mの距離が必要です。『パラリンピック』も70mです。因みに私が取り組んでいる種目のコンパウンドは、『オリンピック』では種目がありません。世界的に見るとコンパウンドという種目は競技者が増えていますが50mの距離を競います。私が困っていることは射てる場所がないということです。練習する場所がないということです。車椅子の方は、余計に困っていると思います。結局のところ、競技を始めたいけれどどこに行けば良いのかということになります。
小金沢:練習する場所が無いに等しい現状は改善しなければなりません。
大 塚:私の住んでいる「足利市」でも「足利市民プラザ」で初心者講習会というものを実施していますが、私が「足利市民プラザ」に働きかけて、毎週水曜日の夜の障害者専用時間に練習させていただけるようになりました。県内でアーチェリーをしている障害者は私の把握できているところでは3名しかいません。現状については、健常者は学生がメインですが、卒業すれば競技を終えてしまっています。練習する場所が少ないので続けて行けなくなってしまいます。
小金沢:全国的に見てもそのような状況ですか。
大 塚:全国的な話です。現状は、高校で成績を残して、大学で成績を残して、ナショナルチームからお声がかかって続けているという人がいるという状況です。障害者に至っては、コンパウンドに関しては私が一番若手なくらいです。次世代につなげることができません。
▼アーチェリーを始めるには
小金沢:障害のある方がアーチェリーをはじめるためには、どうすれば良いのでしょうか。必要な用具については貸してくれるところはあるのですか。また、障害のある方を対象としたアーチェリー教室など、どこに行けばアーチェリーを楽しむことができるのですか。
大 塚:『栃木県身体障害者アーチェリー協会』の代表者の吉岡さんが、先日、「小学4年生でアーチェリーをしたいという障害児がいた。」と話をされていたのですが、その時は初心者講習会に参加するよう話をしたようでした。私は、初心者講習会は年度が変わってからスタートするので、やはり始めたいと思ったときに始めることが大切だと思います。例えば、月に1度、そのような体験会を開催できれば良いと思っています。初心者講習会は、約3か月にわたって毎週通って講習を受けるのですが、始めに「安全面」「マナー」をしっかり指導されます。そのことをよく理解しなければ弓を射たせることはできないということです。なぜならば、アーチェリーという道具は武器にもなりますし、殺傷能力もあります。海外ではハンティングの道具として使われています。そのことを最初に理解してもらわなければなりません。ただ、道具を所持するのに資格がいらないというのは、私達の先輩たちが純粋にスポーツとして立ち上げてきたくれたお蔭であり、未だに所持するのに資格はいりません。だから練習する場所についても自分達で規制しています。どこでも撃って良いということではなく、限られた場所でしか撃つことができません。
小金沢:自分の家の庭で撃って良いとはならないわけですね。練習場所の確保は大きな問題です。
大 塚:ライフル射撃の場合は、道具を持つことに許可がいりますが、アーチェリーの場合はその許可はいりません。私の知り合いで猟銃を持っている方がいますが、練習する場合ででも行動を規制されると聞きます。例えば、練習に行った帰りにどこかに立ち寄るということはできないそうです。アーチェリーについては、そこまでの規制はありません。アーチェリーの場合は、道具を持って歩くときは必ずケースに入れて運ぶことになっています。そして、自分の使う道具には必ず名前を入れることになっています。矢に至るまでです。
小金沢:何か起こったときには誰のものか分かってしまうわけですね。
大 塚:練習用に使う矢についてはそこまでしていませんが、競技として自分が使用する場合には名前を入れて番号を振ることになっています。私は、現在足利工業大学で学生に教えていますが、「例えば矢が10本あって10本出したならば必ず10本あることを確認してしまいましょう。」と教えています。「1本失くしたら見つかるまで探しましょうね。」と指導しています。もし、矢を無くして誰かによって見つけられてしまったのならば、競技をすることができなくなってしまいます。他のアーチェリーを愛する人達に迷惑をかけてしまうことになりますので、学生達にはそれを守るよう指導しています。
<大塚忠胤(おおつか ただつぐ)さんのプロフィール>
生年月日:1968年3月22日
住所:足利市
職業:株式会社レンタルのニッケン
障害名:肢体不自由(一上肢の機能を全廃)
趣味:オートバイ、モータースポーツ観戦(テレビ観戦)
家族構成:妻、子ども3人(男の子、女の子、女の子)
競技歴:11年
好きな言葉:おもしろき事なきこの世をおもしろく(高杉晋作)
愛読書:竜馬がゆく、深夜特急
好きな歌:Don‘t Stop Me Now(Queen)
好きなタレント:タモリ
主な成績:
2009年 全日本障害者室内選手権CP男子 優勝
2010年 全日本障害者室内選手権CP男子 優勝
2010年 ジャパンパラリンピックCP男子オープンの部 優勝
2011年 厚生労働大臣杯全日本障害者アーチェリー大会CP男子オープンの部 優勝
2011年 ジャパンパラリンピックCP男子オープンの部・3位
2011年 APC Archery Cup Championship タイ・バンコク 8位
2011年 全日本社会人フィールドアーチェリー選手権 4位 ※健常者の大会
2012年 NFAAワールドアーチェリーフェスティバルin VEGASFLXクラス 優勝
2012年 全日本フィールドアーチェリー選手権 10位 ※健常者の大会
2013年 全日本社会人フィールドアーチェリー選手権 10位 ※健常者の大会
2013年 NFAAワールドアーチェリーフェスティバルin VEGASチャンピョンシップLXクラス 3位
2013年 全日本フィールドアーチェリー選手権 10位 ※健常者の大会
2013年 厚生労働大臣杯全日本障害者アーチェリー大会CP男子オープンの部 フェニックス杯 3位
2013年 NFAAワールドアーチェリーフェスティバルin VEGASFLXクラス2位
2014年 全日本フィールドアーチェリー選手権 16位 ※健常者の大会
2014年 全日本社会人フィールドアーチェリー選手権 6位 ※健常者の大会
2014年 インチョン2014アジアパラ競技大会 CP-OPEN MENベスト8
2014年 第14回全国障害者スポーツ大会長崎がんばらんば大会2014 クラス2位